「ハイレベルな報告」

「ハイレベルな報告をして。」と言われたら、みなさんはどんな報告を思い浮かべますか?

私が、外資系で働いていたころの話です。私が勤めていた日系の会社がアメリカの会社に買収され、社名が変わったその日から突然、仕事のやり方を含めていろんなことがAmericanになりました。本社がアメリカですので、レポートする先もアメリカ。いろんな通達が来るのもアメリカ発信。書類もプレゼンテーションも英語。そして、本部から押し寄せてきた派遣されてきた人達も日本人であってもカタカナ用語をいっぱい使っていました。「インテグリティ上、それはだめ」「彼はバンド的にOK」「アドホックする?」「アサインしておいて」「FYIね」「それはHQマターね」・・・などなど。私はまだそこまでカタカナや英語に抵抗はなかったのですが、他の社員の方のほとんどはまさか自分の会社がアメリカに身売りされるなんて思ってもいなかったようで、あまりにも急にカタカナが飛び交うようになったことに戸惑っている人も多くいました。最初のうちは、「またあの黒船たちがわからん言葉使っている。」なんて言っている人もいました。

当時、私はある新商品開発プロジェクトに関わっていましたが、ある日、本部からやってきた別の部署の人(日本人)から、「あとで、ハイレベルでいいから概要を説明して。」と言われました。その頃、まだ新人だった私は、(は?ハイレベルって、私が?そんなん無理でしょ。)と思いました。いきなりハイレベルって、、、そう、私は、「高いレベルの素晴らしい報告をして」と言われたのだと勘違いしたのです。そこで、どんな資料を作って説明しようかと考えていたところ、先輩が、「ハイレベルってな、俺もこの前言われてどないしようって思ったんやけど、どうやら、『大雑把な』っていう意味みたいやで。」と教えてくれました。(えーっ?ハイレベルが『大雑把』?!)とびっくりしましたが、職場ではあっちでもこっちでも「ハイレベル」という言葉を使っていて、よく聞いていると、確かに、「概要」とか「大まかな」という意味で使っているということが分かりました。

たとえばこんな感じです。

I will send you a high-level summary of the discussion. 

(ディスカッション内容のハイレベルなサマリーを送ります。)

How did the meeting go? Please report it at a high level later.)

(今日の会議、どうだった?後でハイレベルでいいから報告して。)

He gave us a high-level overview of the new project.

(彼は、新しいプロジェクトについてハイレベルな概要を説明した。)

これらの例で使われている「ハイレベル」は、みんな「おおまかな」という意味です。

その時は、深く意味も考えることもなかったのですが、今日、中級クラスの単語テストで the working-level consultation というのが出てきて、当時よく使っていた「ハイレベル」という言葉を急に思い出しました。"working-level" と対比すると"high-level"がよく理解できると思い、生徒さんに説明をしました。

今回のテストで出てきた the working-level consultation というのは、「実務者レベルの協議」と言う意味ですが、一般の企業や組織の序列は、下からlow-levelから上位はhigh-levelになります。上位層が集まる会議は high-level meeting(ハイレベル会議)と呼ばれ、このような会議では大きな方針を決めたり、決断をしたりします。そして、その層に属する人は全体を見渡して(=俯瞰して)方向性を決めることが求められますが、細かい詰めの話や、具体的な方法、課題への対応などは、このレベルの会議ではなく、working-level meeting(実務者レベル会議)で話し合われます。つまり、「ハイレベルな報告をして」というのは、細かい話ではなくて、どういう方向性でいくのか、といった概要を報告してください、ということなんですね。あれから何十年もたって、私自身も今頃やっとスッキリしました。

もちろん、英語のhigh-levelにも、日本語と同じように「高いレベルの」という意味もありますので、文脈の中で判断することが必要ですね。